2017年06月01日

スパイスは程々に

 ゴールデンウィークを終えてもうすぐ一か月だというのに、横浜FCが首位争いの輪の中にいるという望外の好戦績で、ご機嫌上々の佐々木でございます。
 大変ご無沙汰しております。
 さて、そのGW前に起こった他チームの出来事について色々と思う所ありまして、久々に筆を執った次第。

 サッカーに限らず、スポーツの応援で対戦相手を挑発する「煽り」という行為があります。使い古された表現ですが、それは時にスパイスのように試合を彩ります。

 時系列が前後しますが、4/29に行われたJ2第10節を前に、愛媛FCが「山形、許すまじ」というコピーのポスターでモンテディオ山形を「煽り」ました。
 本題ではないので詳細は省きますが、昨年愛媛を率いた監督を招いた山形が、結果的にその教え子とも言うべき中心選手数人を引き抜く形になっており、その因縁の対決を演出する意図で件のポスターを(山形側の了解をとった上で)、地元で掲示・配布したというものです。
 果たして、これがインターネット経由で全国のサッカーファンの知るところとなり、愛媛が2-0で勝利したことで大きな話題となったわけです。
 そのコピーが実は「山形許す、マジ」のアナグラムじゃないかという指摘もあり、このスパイスはなかなか奥深い味付けだったのではないかと、ワタシも感心している次第です。

 前置きが長くなってしまいましたが、これからが本題。
 4/25のACLグループステージG組第5節、水原三星-川崎F戦のスタンドに旭日旗が持ち込まれ、5/4に罰金15000ドルと執行猶予付きの無観客試合の処分が川崎Fに下された一件です。

 まず始めに断っておきますが、この記事上では
「旭日旗そのものが差別的であるか否か」
について、ワタシの見解を述べるつもりはありません。

 ワタシはそれがこの問題の本質ではないと思うし、このセンシティブな題材のために議論が脱線するのが本意ではないからです。

 とはいえ、今回の件で川崎Fが受けた処分理由についてはAFCがハッキリと「差別」と断罪してしまいました。

THREE CLUBS FOUND GUILTY OF DISCRIMINATION AND SPECTATOR MISCONDUCT
(AFC公式リリース:2017年5月4日付)


“Kawasaki Frontale were also found to have violated Article 58 and Article 65 of the Code relating to the actions of an away supporter at the match Suwon Bluewings (KOR) vs Kawasaki Frontale on April 25. The away supporter displayed a banner with a discriminatory symbol relating to national origin and political opinion.”

 引用部分では何の「第58条」「第65条」であるかが省かれていますが、文脈的には同じリリースに記された他2件と同じ「AFC Disciplinary and Ethics Code」の第58条(差別)と第65条(観客の行動に対する責任)に抵触したと解釈するのが自然だと思います。

 叱られた時に「だって俺は悪くないじゃん」と駄々をこねるのではなく、まず「自分に落ち度はなかったか」と自省するのが、分別ある大人の態度だとワタシは思うのです。だから「差別した」と指摘されたのなら、まず「本当に自分は差別をしていないのか」と自分を疑うのです。

 差別とは何でしょうか。人は一人一人、互いに違った身体・心・魂・人生を持って生まれ暮らしています。そのそれぞれに自分勝手なモノサシを当てて、優劣をつけて貶め、傷つける行為ではないかというのが、現時点でのワタシの考えです。
 少なくとも単に特定の単語を口にしたり文字にした/特定のビジュアルを掲げたから差別、という事ではないと思います。

 差別が何故悪いとされるのか。端的に言ってしまえば相手を傷つけるから。それもエスカレートすれば相手の生存権や財産を大きく損ねるレベルにまで発展してしまいます。であれば、差別か否かの基準は「どういう単語を言ったか」「どのようなビジュアルを掲げたか」ではなく、「言われた/見せられた側がどれだけ傷つけられたか」ということではないでしょうか。

 であれば、日本政府の見解等を根拠にした川崎FやJリーグの釈明はあまり意味をなさないと思います。

 同じ話題を取り上げている『フットボール・チャンネル』の清義明氏の記事
旭日旗はなぜサッカースタジアムで禁止なのか? 関係ない日本側の主張、知るべき国際ルール(2017年4月27日付)

 引用している諸規定の解釈については正直「?」と感じるところもあるので内容そのものには踏み込みませんが、最後に例示された「大アルバニア主義」の旗。没収試合・勝ち点没収などの厳しい裁定の原因になったこの旗が、仮にJリーグの会場で掲げられた場合、問題視されるでしょうか?
 アルバニア籍の選手が所属するマリノスと町田以外の試合では、おそらく「何だコレ?」と一顧だにされないでしょう。Jリーグのスタジアムにいる人々の多くにとっては単なる「物珍しい旗」でしかないのですから。もちろん大アルバニア主義の事を知っている方は眉をひそめるでしょうが、Jリーグも特に処罰に動くことはないでしょう。
 それが清氏の記事にあるように、当事者国の試合で掲げられた時は大きな事件に至ったわけです。重要なのは「掲げられたメッセージ」と「受け取る側」の相関関係でしょう。

 「韓国側が旭日旗に対して騒ぎ立てるようになったのは、東アジア杯のキ・ソンヨン選手の騒動があった2013年からだ」とする向きもあります。確かにサッカー界でのクローズアップはそういう側面もあるでしょうが、ワタシ自身の記憶を辿れば、旭日旗が韓国社会や中国社会でネガティブに捉えられるというのは21世紀になる前から新聞やテレビで報じられていたように思います。
 それは、どちらが正しいとかいう話ではありません。元々そういう下地があったけど、当時はヘイトスピーチへの関心が十分に波及していなかった。そもそも旗を掲げる等といった言葉以外による攻撃的メッセージがヘイトスピーチという概念に含まれるということが日本周辺では共通認識となっていなかった。だから、韓国側も内心で腹は立っても抗議するという発想自体が浮かばなかった。今は世界的なヘイトスピーチに対する関心の高まりによって、そういう声を挙げれば周囲に関心を持たれるようになった。そういう事のように思います。

 それはともかくとしても、色々な騒動を経た2017年現在においては、旭日旗というアイコンが韓国社会において攻撃的なメッセージというコンセンサスが出来上がっているという事実は疑いようもないと思います。日本社会側も韓国社会側も賛否を戦わせる中で互いに学習しているでしょう。
 そういう認識を持っているとお互いに判っている関係性の中で、あえて旭日旗が掲げられれば、韓国側が「許容できないレベルの挑発」と感じ傷つくのは想像に難くありません。

 旭日旗を掲げる側の想いも「愛国心を表現したい」「旭日旗は日本古来からある単なる慶事の旗だ」等々色々あるのでしょう。それを表現するのは自由ですし、ブログなりインスタなり本を出すなりして精一杯アピールすればいいでしょう。
 ただ、それをスタジアムでする必要はありますか?
 そういう話題から離れてサッカーを観たいだけのスタジアムを訪れた韓国側のファン・サポーターの気持ちをあえて傷つける方法でアピールしなければならないのでしょうか?

 ワタシは全て人の心はそれぞれ同価値と信じます。差別とは、その同価値のはずの心を「●●人の心だから傷つけても構わない」とする考え方。旭日旗そのものではなく、「傷つけてはいけない心」と「傷つけても構わない心」とを国籍や民族、性別、身体的特徴を理由として選別するその心根こそが差別的だと考えられないでしょうか。
 AFCが川崎Fに下した処分理由をあえて「差別」としたことは、それを指摘してきたということではないかと、ワタシは今回の件をそのように解釈して消化しています。

 さて、ここから損得論の話もしましょう。

 もちろん、今回旭日旗を掲げた観客がどういう意図をもっていたのか、ワタシには知るべくもありません。
 昨今、ヘイトスピーチへの規制は厳しくなってきました。そして残念ながらそれと同時に、禁止されている単語や記号を直接使う事はせず、ありきたりな言葉の組み合わせや隠語を駆使したり、あえて曖昧な言い回しにして追及された時に「そういう意図はなかった」「●●に向けて言ったつもりはなかった」という逃げ道を作るなど、ヘイトスピーチは巧妙化してきているように思います。
 そういう状況下でスタジアムからヘイトスピーチを根絶するには、「メッセージを発した側の意図」よりも「受け取った側の感じ方」を基準にして「疑わしきを罰する」方向にせざるを得ないのが現状ではないのでしょうか?
 だから旗を掲げた人の意図がどうであれ、このような厳しい処分になったと理解しています。ここで変に言い訳をして「日本はヘイトスピーチに甘い」という印象を持たれるのは、大いに損なことだと思います。

 そして一方、ロンドン五輪での韓国代表選手の領土問題アピールや先の東アジア大会のキ・ソンヨン選手の振舞いはスポーツマンシップにもとる行為であり、それに対する処分も甘かったという感想をワタシは持っています。
 さらについ先日行なわれた済州ユナイテッドと浦和レッズの試合でも、試合終了間際に済州の一部選手により目を覆うようような暴力行為がありました。当然処分の対象になるとは思いますが、これに対しても韓国側に甘い裁定になるのではないかという懸念の声が出ています

 これは日本サッカー界がAFCやFIFAに対する発言力・影響力を十分に得られていない事も理由の一つでしょう。
 であれば、日本の立場を強くするためにも川崎Fと浦和がACLを勝ち抜けるようにサポートするのが得策ではないでしょうか。ただ、残念ながら両チームとも「差別」問題がアキレス腱となってしまっています。特に川崎は今回の件で執行猶予中の身です。いま旭日旗にこだわりすぎて、再び問題が起こって無観客試合になったり、さらに大きな問題に発展して「失格」という最悪の事態を招くリスクを負うのは逆に両チームの足を引っ張ることになるとワタシは考えます。

 今季、川崎Fか浦和がACLを制し、あわよくばCWCでも好成績を残し、来期以降もJクラブがそれに続き、日本代表も好結果を残し続ける。それと同時に、日本が嫌疑をかけられた時も変な言い訳をせず、自らに過ちがなかったか真摯に謙虚に振り返る。そして非があると認めれば素直に謝る。
 それを継続することでようやく、日本はAFCやFIFAでの強い立場を得られるのではないでしょうか。その上で日本が何かに異議を唱えた時、「あの日本が言うことなら」と真剣に耳を傾けてくれるのではないですか?

 クラブや選手、サッカーよりも旭日旗の方が好きな方はスタジアムに来る必要はありません。そのアピールはスタジアムの外で、色々な手段を使ってできるのですから。そこで自己責任で頑張ってください。
 愛するクラブの応援はスタジアムでしかできません。サッカー以外の理由でそれを台無しにされるのは迷惑です。これは善悪で言っているのではありません。損得の問題だからこそ「迷惑」だと申し上げているのです。何よりスタジアムはそういうものから解放された楽しい場所であって欲しいのです。


 料理の美味しい不味いを決めるのは食べる人です。
 料理の味付けをするには食べる人のことを第一に考えるものです。辛いのが苦手じゃないか、アレルギーがあるんじゃないかと色々考えるのです。自分が食べられるから大丈夫、ではありません。
 スパイスは料理のメインではありません。選び方も使い方も程々の刺激を心得ておきたいものです。

posted by 佐々木大悟 at 22:05| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | サッカー全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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