2005年05月04日

宝塚線脱線事故(1):冷静に怒れ。

100名を超える死者を出したJR宝塚線の脱線事故から1週間以上が経った。ようやく様々なことが判り始めてJR西日本の経営姿勢や運行実態の問題点が明らかになってきているが、こんなくだらない事で突然人生を奪われてしまった犠牲者の方々の無念、かけがえのない家族を失った親兄弟や連れ合いの方々の悲しみや怒りは察するに余りある。この事故の非や責任の所在がJR西日本にあることは間違いない。

だが一方で、事故が起こってから今までの「初動報道」にいくつかの違和感があったのも事実である。JR西日本の説明責任や被害者対応が適切ではなかったと責めるメディアの側も、適切な報道をできていたのだろうか?利益優先で事故を起こしたJR西日本と同様に、各メディアは視聴率や部数優先で誤った情報を垂れ流したり、不必要に人の名誉を傷つけたりしていなかったのだろうか?
そういう疑問を自分自身で整理する意味で、事故報道について感じたことを少しずつ記してみようと思う。まずはライブドアのパブリック・ジャーナリスト(以下PJ)廣島佳代子氏のこんな記事から。

責任の所在-それはJR-(ライブドアPJニュース:4月30日付)

ここで問題としているのは、「事故に対し『怒り』を持つ」行為を抑圧する言説である。この時期に、このようなことを述べることが適切だとは思えない。先にも述べたように、今回の事故では、「被害」と「加害」の関係は明確なのである。大切な人を失なったり傷つけられた人が、その心の痛手を「怒り」として表現することは、心理学的にも極めて真っ当なことである。

 むしろ今怒らねば、「被害者」の精神に後々及ぶ影響が懸念される。また、広く国民が「怒り」を持つことも否定されるべきではない。われわれは、「共感する」能力をもっている。「もし私だったら」「もし家族が乗っていたら」と、自分に置き換えて物事を考える力を私たちは有しているのである。「被害者」や「被害者の家族」と同じ位置に立ち、その地点から考えていくことこそが今必要なのではないだろうか。

 「怒り」は当然である。いや、怒らねばならないのだ。


以上の斜体の文章は記事の終盤を引用したものである。
確かにその通りである。被害者やその家族の立場からの怒りを一人でも多く共感することが、被害者側を孤独にさせないために大切であり、今回の「初動報道」においてもそれは十分に実行されていると思う。
ただ、その「怒り」の矛先が正しく向けられていたか?「今の時期に」と焦る余り未確定の情報や誤解に基づいて予断を与える報道をしていなかったか?というとワタシはかなり怪しいと思う。

小さな例を一つ挙げよう。
あるニュース番組でJR西日本の「利益優先」体質を指摘するために、利用者へのインタビュー映像を流していた。その中に「また新しい駅を作って、それでまた運賃が上がる…」という事実誤認に基づく回答もカットされずに流れていたのである(JR本州3社は発足以来、普通運賃について消費税関連以外の値上げは一度も行なっていない)。
誤解のないように断っておくが、JR西日本に安全より利益を優先する企業体質があったことを否定しているわけではない。ワタシがここで言いたいのは、「怒り」を表すこと、JR西日本を叩くことが自己目的化すると、このような嘘や誤解が電波や活字となって垂れ流される危険もあるのではなかろうか、ということである。少なくともこの例で「JRを叩くためなら」と報道当事者が事実確認に無神経になっていたのではないかと感じたのである。その嘘や誤解が再発防止策の妨げになることは全くないと言い切れるだろうか?

沢山の人が死んだ大きな事故だからこそ、事実のみが語られねばならないと思うが、ちがうだろうか?

「怒り」は当然である。いや、怒らねばならない。
そして、だからこそ冷静に怒らなければならないのではなかろうか。
posted by 佐々木大悟 at 01:26| Comment(2) | TrackBack(4) | 宝塚線脱線事故 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
映像を見ながら、「怒りの方法」の実践の場なんだと思いました。自分がその立場ならうまくできるという自信はありませんが。
>JR西日本を叩くことが自己目的化すると
原理主義になってしまいますね。
Posted by quimito at 2005年05月11日 19:11
>quimitoさん
コメントありがとうございます。
確かに外野から見ているのと取材の現場にいるのとでは違いますから、いざ自分がその立場にたつと冷静さを保つのは難しいのかもしれません。でも、その難しい仕事をするプロだからこそ記者さんには高い要求をしたい。今回の様な感情に流された雑な仕事をして、これ以上マスメディアの信頼を失墜させないで欲しい、とワタシは思います。
Posted by 佐々木大悟 at 2005年05月14日 02:02
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/5948444

この記事へのトラックバック

プラレール
Excerpt: 「息子もちょっとづつお兄ちゃんになってきたんだなー」と感じる瞬間。 あんなに大好きだった「プラレール」を従兄弟にあげるといいだしました。 早速、ゴールデンウィークを利用して 大量の「プラレール」をもっ..
Weblog: 日曜日生まれ!
Tracked: 2005-05-04 06:35

【絵社説】JR福知山線事故・語り下手は絵で社説。
Excerpt: JR福知山線事故の絵による社説。 1 2 >quimitoさん コメントありがとうございます。 確かに外野から見ているのと取材の現場にいるのとでは違いますから、いざ自分がその立場..
Weblog: 私は20代でビジネスオーナーになる!私はデザインのロイヤルティで幸せ金持ち生活する!
Tracked: 2005-05-05 17:50

JR西日本社長、そんな社員に誰がした?
Excerpt: 脱線した電車に乗り合わせたJR西日本の運転士2人は、救助活動をせずに、上司の指示に従ってそのまま出勤したという。私が当の運転士であったなら、彼らと同じように上司の命令に従って出勤していたことと思います..
Weblog: 為替王
Tracked: 2005-05-08 16:52

マスメディアと記者ブログ
Excerpt: まずは尼崎JR脱線事故のその後(5/8補足)の補足から。 無知は犯罪〓尼崎事故を >quimitoさん コメントありがとうございます。 確かに外野から見ているのと取材の現場にいるのとでは違いますから、..
Weblog: quimitoのご本ご本
Tracked: 2005-05-11 19:27